第5話3

文字数 825文字

き、貴様っ、何奴!?

 咄嗟に突き出された槍頭をやり過ごし、前に出した左手で身体の内側にはたくように受け流す。

 鋭い刃がギラリと陽光を照り返す。

 目の前を通り過ぎていく槍を残った右手で掴み、ぐいと後方へと引っ張りつつ足を前へ進める。

 槍の柄に沿って滑るように左手を伸ばしていくと、相手はこちらに背中を向けるような形になった。

 槍は強いが、懐に入ってしまえばこんなものだ。

 硬く握りしめた左手で裏拳を頭部めがけて放つ。

 ガツンという衝撃。

 相手の頭が跳ね上がる。

――うぐっ!?

 しっかりと両足を踏みしめて、今度は右拳で顔を殴りつけると面具がひしゃげる。

 首元を守る目の下頬の垂を左手で握りしめて相手の動きを制御しつつ殴る。

 逃れようとするが構わず二度三度と殴る。

主様。

頭部を完全に破壊しました

 気が付けば相手の体から力が抜けていた。

 ここまで一呼吸。

 掴んでいた左手を広げると力を失った相手は地面に膝をつき、そのまま仰向けに倒れた。


 大地が揺れる。

 巨大なのだ。

 なにしろ機巧武者の全高は優に四メートルを越えているのだから。


 その機巧武者を圧倒する僕もまた鎧をまとった巨大な姿だった。

 月輪(つきわ)に一つ葵の前立(まえだて)

 板を接いで留めた筋兜(すじかぶと)の天辺からは烏帽子の先端の代わりに葵色をした美しく長い髪のような房が飛び出している。

 兜の側面には吹返(ふきかえし)と後頭部から首筋を隠す五段下りの(しころ)

 両肩には葵色の糸で(さね)(おどし)大袖(おおそで)が垂れ下がり矢を遮る。

 細かな草の文様の描かれた弦走韋の下は胴をぐるりと覆う胴丸で、草摺は徒歩でも動きやすい前が三間、後ろが四間の計七間。

 三具として腕を覆う籠手と手甲(てっこう)、下半身の(かわら)佩楯、膝から下を守る脛当が防御力を高めている。

 大鎧(おおよろい)当世具足(とうせいぐそく)のいいところを併せ持った形状の鎧武者姿だった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色