第23話2

文字数 848文字

 翠寿がどうしてもというので制服に着替えるのを手伝ってもらった。

 ありがたいとは思うけど、他人に肌を見られるのって思っていたよりも恥ずかしいんだよな。どうやら僕は貴族様になれそうにない。

誰かが来たようですね
 葵の言葉に扉を見ると、三度、ノックされる。
どうぞ。開いてるよ
 ちなみに扉は横開きで鍵というものはついてない。実質、プライバシーなんてないようなものだ。
開いてるって、当たり前だよね
そこは気にしないでもらえると嬉しい
みんなちゃんと起きてるんだね。偉いえらい。

スイジュもしっかりお仕事できてる?

うん……じゃない。はいっ

 翠寿の返事に、澪は嬉しそうに笑っていた。

 一晩寝て、気持ちの切り替えができたのだろう。

これ、葵の君の制服。

受け取っておいたから着替えてきて

わかりました
スイジュは手伝ってあげて。最初は戸惑うと思うから。

ちゃんとわかるよね

わかりますっ。

葵の君さま、あたしがお手伝いするです

はい。よろしくお願いします

 二人はそろって隣の部屋に姿を消す。

 その後ろ姿を澪はじっと見つめていた。

大丈夫だよ。昨日は二人一緒に寝てたし。

葵も翠寿のことは気に入っているんじゃないかな。

少なくとも悪いようにはしないから

……ありがとう
こちらこそ。

あんなに優秀な子を預けてくれてありがたいよ

そういえば昨日いただいた武具はどうするの?
どうしたらいいんだろう。

小太刀は腰に差せばいいのかな

 一応、昨夜は寝るときに枕元に置いておいたんだけど。

 二本差しじゃないけど左腰に差すべきかな。

 ただこれ、ちょっと重いんだよ。金属の塊なんだから当たり前だけど。

 とりあず初めて会ったときの澪を真似て腰の後ろに差してみた。

うん、いいんじゃない。似合ってる
小太刀はこれでいいとして、弓はどうすればいいんだろう
さすがにそれを持ち歩くわけにもいかないし、部屋においておけばいいと思うよ
そうだな。そうしておこうか

 時代劇だと刀は床の間に飾ったりしていたけど、弓はどうだっただろう。

 武器の保管庫みたいなところに置いてあったんだったかなあ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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