第36話1 ここがおすすめだよ

文字数 624文字

ここがおすすめだよ

 澪が案内してくれたところは年季の入った笠置屋(かさぎや)という居酒屋だった。

 居ながらいしてお酒が飲めるから居酒屋というらしい。

 お酒を売っている酒屋で持ち帰りをせずにその場で升を使って飲むのは角打(かくう)ちというそうだ。

 縄暖簾の向こうからはいい匂いが漂ってくる。

へえ、いい雰囲気だね
そうでしょ。

味も期待してくれていいからね

 見知っている飲み屋とはかなり雰囲気が違っている。

 入ってすぐに竈と水場があり、そこが調理場になっていた。

 客は履物を脱いで板敷のお座敷にあがるか、澪と葵のようにお座敷の縁に座る。お店の中は衝立で席を仕切ってあるだけだ。

 一席を確保すると若い店員さんが注文を取りに来る。年の頃は澪と同じぐらいか。小袖をたすき掛け、綺麗な(かんざし)で髪を結い上げていた。

いらっしゃいませ。

今日は何にいたしますか?

えーと、とりあえずビ――飲み物は何があるのかな。

っていうか、お酒って飲んでも大丈夫なのかな

 中の人は既に成人だけど、外見年齢は十代なのを思い出した。
別に誰も咎めないと思うけど。

無理にはすすめないわよ

じゃあ、お酒をひとつ。

葵もいいよね?

はい
(さかずき)は三つで。

あと、つまみはおすすめのものがあればそれをいくつか見繕ってお願いします

かしこまりました

 さて、どんなお酒が出てくるのか楽しみだ。

 ゲームでは好感度アップ用のアイテムとしてお酒があったけど、果たしてこの僕の好感度は上昇してくれるかな?

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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