第14話5

文字数 748文字

実はしばらくの間はこの国に滞在して腕を磨きたいと思っているんです
ほう、関谷にですか。

ですがこの国は小さく、それにご存じのようにいつ敵国が攻めてくるかわからない状況ですが

だからこそ。

自分の腕を磨く機会も多いかと

ふむ

 じろりと上から下まで見られている。

 だぶついた服を着て見聞を広げるために旅に出たとは聞いて呆れると思われているのではないだろうか。

 この世界での一般的な旅装ではないだろうし。

そのように緊張をされることはありません。

フブキ様は我が国の恩人ですからな。是非、我が殿に会っていただきたく思います。

この後、城へ行って此度のことを報告する予定になっているのですが、よろしければご一緒していただけませんかな

 さてさて、いきなりこの国のトップと会える機会がやってくるとは、なんとテンプレな展開なのか。僕にとってはありがたい流れではあるんだけども。

 当然、こちらに断る理由はない。

 僕を害する意図があれば話は別だけど、国土を守った恩人に無謀なことはしないだろう。それに僕には葵が付いてくれていることだし。

わかりました。喜んで
機巧武者として戦ってお疲れでしょうから、まずは風呂に入って戦塵を洗い落としていただきましょう

 なんとなく武芸を習う場所だと井戸の水で上半身裸になった男たちが笑いながら体を拭くってイメージがある。真っ先にこういうのが思い浮かぶのは時代劇の影響だろう。

 そういえば戦国時代の頃のお風呂ってサウナみたいな感じじゃなかったっけ。


アワブチさん、貴方はフブキ様を風呂場へ案内してあげてください。

着替えの準備もお願いします。予備の制服がある場所はご存じですね

はい、大丈夫です。

それでは失礼いたします

 館長の部屋を後にして廊下を進んでいく。

 広くて新しい建物だけど、誰ともすれ違わなかった。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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