第36話5

文字数 514文字

お刺身につけるこの醤油、味が濃くていいなあ。

魚の臭みも消してくれているみたい

 ワサビはないけど、この醤油とならいける。

 普通の醤油とは違って、真っ黒で少しとろみがある。

それはたまり醤油です。

味噌を作るときにとれるものなんですけど、普通の醤油よりも味が濃いので、お刺身につけたり照り焼きに使うとおいしいんですよ

ふーん。知らなかったなあ。

若いのに詳しいんですね

わたし、お料理が好きで、花嫁修業と称してこのお店で働かせていただいているんです。

キミノといいます

僕は不吹清正。こちらは澪と葵です。

こんなにおいしいものを出してくれるお店なら毎日でも通いますよ

ありがとうございます。

今後もご贔屓にしてくださいませ

 紀美野さんの視線がチラチラと葵に向けられているのがわかる。機巧姫がこういうお店に来るのは珍しいのだろう。
もしかしてお客さんは……機巧姫ですか?
 少し腰をかがめ、そっと囁くような声だった。
はい
 葵の返事を聞いて紀美野さんは目を大きく見開いて驚く。
機巧姫は何人か見たことがありますけど、こんなにお綺麗な人は初めてです。

お父さんも葵の君を見たらきっとびっくりするだろうなあ

 紀美野さんの反応に満更でもないのか、葵も小さく微笑んでいた。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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