第15話2

文字数 820文字

お~。これはなかなかいいじゃないか

 お風呂はサウナ式ではなく、大きな湯船があった。数人が並んで足を伸ばせるようなサイズだ。


 そういえば仕事で泊まり込み作業になったらスタッフと一緒に会社近くの銭湯によく行ったなあ。

 すごいお湯が熱くて、ひーひー言いながら入ったものだけど。なんだかすごく昔のことみたいだ。


 手ぬぐいを頭の上に置いて、のんびりと湯船につかる。

 ああ、生き返る。

 くぅ~、風呂はいいねえ。

 家のお風呂だと足を延ばして入れなかったからなあ。本当にいい気分だ。広々とした湯船というのは実に素晴らしい。

 手足の先から疲れが染み出していくみたいだ。


 湯船の縁を枕に寛いでいると、ガラリと浴室の扉が開く。

――ひぃ!?
あ、いましたね! 

よかったです!

 浴室に入ってきたのは小さな女の子だった。

 紅寿よりもさらに小柄で、湯浴衣(ゆあみぎ)を着ている。

 そして特質すべき点は――

犬耳だっ

 彼女にもまた犬耳――いや、狼耳だ。人によっては怒り出すらしいから注意しないと――がついていたのだ。

 おまけにお尻のあたりにはフサフサの尻尾もある。

 きっと紅寿と同じ人狼の一族なのだろう。


 おお、神よ。マヂですか。

 こんなイベントがあるなんて聞いてませんでしたよ。感謝します!


 いや、待て。

 ここで慌てたら紅寿のときの二の舞になる。

 同じ轍は踏まない。僕は学習ができる人間だ。

 まずは冷静に状況を確認しなければならない。

えーと、君は?
あたしはスイジュです
翠寿ちゃんか。いい名前だね

 名前を褒めると、にっこりとお日様のような笑顔をしてくれた。

 くぅ、これです、これですよ、神!

 こういうのを僕は待っていたのです!

翠寿ちゃんはどうしたのかな。

お風呂に用事があったの?

はいっ

 うん、いいお返事で花丸をあげたくなる。

 きっとこの子も操心館に所属をしているのだろう。それで汗を流そうと思ってお風呂場に来たら僕がいた。

 うむ、実にありがち。漫画やアニメなら定番の展開だ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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