第51話2

文字数 701文字

澪ってさ、町中の居酒屋を飲み歩いてるなんてことはないよね?
な、ないわよっ
本当に?
ほ、本当だもんっ
 必死になっているのを見て、ますます怪しく感じてしまう。
紅寿、本当のところはどうなの?
 困ったような顔をしてから紅寿はゆっくりと首を左右に振った。
あっ、ひどい! 

こういう時はかばってよ!

紅寿は事実を教えてくれただけだろ。普段から飲み歩いてる澪が悪い。

どうせ毎回飲み潰れてたんだろうし

そ、そんなことはない……から

 語尾が消えていくのは心当たりが多すぎるからか。

 事実、隣で紅寿が悲しそうな顔をしていた。

お願い、コウジュ。

そんな顔で私を見ないで……なんだか情けなくなってくるから……

 言いながらも澪は杯に残ったお酒を一気にあおる。

 駄目だこの人、早くなんとかしないと。

こちらが今日のおすすめだよ~!

 床に酒の肴が置かれていく。

 大ぶりな豆腐を焼いて、その上に黒い味噌を塗った味噌田楽に芋類の煮物。それから飴色をした煮魚だ。

じゃあ、いただきます
 めいめいが箸を伸ばす。
ううーん……

 どれも微妙だった。

 味噌のせいでわからなかったけど豆腐は黒く焦げているし、煮物には芯が残っている。そして魚は生臭い上に鱗もちゃんと取れてない。

もしかして今日も紀美野さんはお休みですか?
そうなのよ~。

うちはあの子で持ってるようなものだから困っちゃって。

早く戻ってきてくれないと閑古鳥が鳴きそうよ~

 うん、それはなんとなくわかる。
でも操心館の食堂よりはずっとまともだし、これなら十分いけるって

 瞬く間に不動のお腹の中に食事が納まっていった。

 この料理を美味しくいただける不動をして閉口させる操心館の食堂のクオリティは推して知るべしだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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