第44話2
文字数 772文字
不動はすごく前のめりだった。
このまま転げ落ちても悔いなしと言わんばかりの食いつきぶりだ。
蓬髪の男性の呟きに不動が無言で頷いている。
そこまで真剣になって見るようなものなのだろうか疑問だ。
だって体を洗ったりしているだけなんだし。
取るに足らない冗談のつもりだった。
鬼の不動の肺活量ならそういうこともできたら面白いよね、ぐらいの。
食いついてきたのは蓬髪の男だった。
期待に満ちた目をしてこちらを見る。その視線を不動が捕まえた。
いや、別に変な意味ではない。
不動の視線は男の首回りや腕、足に向けられている。
確かにこの人は町人に見えない。
腕や足にはしっかりと筋肉がついていて、鍛えられたボクサーのような体つきをしている。
さっと不動の顔が朱に染まる。
そして手を頭巾の上に置いた。
ああ、そうか。
不動は角を隠すために頭巾を被っていたのか。
男の声には期待の色がある。
口をへの字にして男性を睨みつけてから不動は大きなため息をついた。
大きく息を吸い込む。
胸を張ってまだ吸う。吸う。吸う。
そして勢いよく吐き出された息が湯気を吹き飛ばしていた。
さあっと視界が晴れていく。