第41話3

文字数 926文字

実はこの国で一番と名高い須玉匠と会う予定になっているのですが、こちらのお店は先方と取引があると耳にしまして。

そこでどんな方なのかを教えていただければとお邪魔した次第です

とは言いましても……
 中伊さんの言葉に困惑の色が混ざっている。
僕たちは操心館に所属しています。

そこの調律師、茅葺さんからの紹介なんです

ああ、カヤブキ様の。そうでしたか

 得心がいったようだ。

 素性の知れない人からいきなり取引先のことを聞きたいって言われても困るもんな。こちらの氏素性がわかれば話も早いはずだ。

カヤブキ様にはご贔屓にしていただいています。なんでも聞いてください。

この国一番の須玉匠といいますとリュウセンジ様のことですね

リュウセンジってまさか……

 慌てたように澪がこちらへ来て会話に加わる。

知ってる人?
もしかしたらだけど……
八岐が種族の一つ、水蛟(みずち)の血を引くお方ですよ
八岐が種族の一つ、水蛟(みずち)の血を引くお方ですよ
 何故だか澪がうんざりしたという顔をしている。
やっぱり……
知ってるんだ
ううん。本人のことは知らない。でも水蛟なら知ってるから。

なんていうか……面倒くさい人たちなんだよ

面倒くさい……なるほど、確かに
 澪の言葉に中伊さんはうんうんと頷いている。
なんとも気難しい方で、気に入らない相手には容赦なく雷を落とすと聞いています

 カミナリ親父か何かだろうか。それは確かにおっかない。

言っておくけど雷云々は比喩表現じゃないからね。

本物の雷を落とすから

……は?
水蛟は竜の一族なの。

雲を呼び、嵐を起こし、雨を降らせ、雷を落とす。

各地に残る竜神伝説って全部が全部作り話じゃないんだよ、水蛟が本当にやったこともあるから

 人狼や鬼がいるのなら竜がいてもおかしくはない。なんなら森の妖精エルフ――ってこの世界だと木霊がそれか。

 あとはなんだろう。首をはねる殺人ウサギや虎頭の獣人でも出てくるのかな。


 なるほど、ようやく理解した。

 個人的にケモノ属性キャラは大好きだけど何事も行き過ぎはよろしくない。当時のスタッフの言っていたことがようやくわかった気がする。

 しかし須玉匠について事前に情報収集をしておいてよかった。不意打ちで雷を落とされたらひとたまりもないところだった。


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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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