第46話1 不動と二人で門で待っていた白糸様の前に立つ

文字数 803文字

 不動と二人で門で待っていた白糸様の前に立つ。

おお、フブキ殿。

突然邪魔をして申し訳ない

 白糸様は立派な馬からひらりと降りた。実に様になっている。

 僕もいつか、あんな感じに馬から乗り降りしてみたいものだ。

構いませんよ。

今日はどのようなご用件でしょうか

これから城下町まで一緒にいかぬか
それは構いませんが……

 見たところ護衛が一人もいない。

 まさかこっそりお忍びで来たなんてことは……ないといいなあ。

城下町には人形を扱う店があるというのでな。この目で直に見ておこうかと思ったのだ。

武士たるもの戦いの場に身を置き、領民を守らなければならない。

父上の後を継いで私が国をまとめる時には機巧武者として戦えるようになっていたいのだ

 遠くを見つめる白糸様の瞳は燃えるように輝いている。

我が家が持つ天色の君の連れ合いとして私は選ばれなかった。

そのことは残念だが、考えてみれば関谷には多くの人形がいる。

だからその中には私を連れ合いと認めてくれる機巧姫がいるかもしれないと考えたのだ

なるほど

 数撃ちゃ当たる方式か。

 ちょうど不動ともそんな話をしたばかりだった。

それなら不動も同行させたいですね
フドウ? 

ああ、そこの鬼のことか

 明らかに白糸様の態度に変化があった。

 不動に向けた視線はまるで珍しい動物に向けるようなものだ。

 不動は顔をこわばらせて直立している。


 ああ、それでかとさっきの澪の態度を理解する。


 澪たちの話しぶりや梅園さんの言動から、八岐と呼ばれる人たちがこの世界での被差別層であるのは容易に予想ができた。

 それでも操心館のような場所で共同生活を送っているのだから差別は露骨に表面化しない程度のものではないかと思っていたんだけど、どうやらそれは思い違いだった。

 差別というのは難しい問題だ。

 この世界で生まれ育ったわけではない僕では理解できない事情や感情があるのは容易に想像がつく。けれど今の態度はあまりによろしくない。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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