第56話3
文字数 553文字
荒い息を吐きながらも中伊さんは足を止めない。
既に日は傾き、高い木々に囲まれているのもあって視界は悪い。
足を踏み外せば谷底へ転がり落ちかねないので慎重に進んでいくしかなかった。
さらにしばらく歩くと、前方に小屋のようなものが見えてくる。
正直、おいしくはない。
竹でできた水筒の水で無理矢理流し込んだ。
春とはいえ夜になると気温がぐっと下がる。しかも今いるのは山の中だ。座っているだけでも寒さが体にしみ込んでくる。
中伊さんはよほど疲れていたのか横になってすぐに寝息を立てていた。ほつれた髪と乾いた肌。初めて出会った時の印象とは随分と変わっている。
不動の呟き声にはあえて返事をしなかった。
どこで犯人たちが見ているかもしれない。
体重をかけるとギシギシと音のする板間に横になる。
ろくな寝具もないが目をつむるとすぐに眠気がやってきた。