第58話1 きゃうん

文字数 607文字

きゃうん
翠寿!
あ、あれ? どうなってるの? 

キヨマサさまー!

 翠寿の周りに透明な壁があるみたいだった。

 空間に閉じ込められてそこから出られないようだ。

そいつを持っていかれちゃあせっかくの計画が台無しなんでさ。

苦労してようやく手に入れた機巧姫なんでねェ

翠寿に何をした!
 懐から出した苦無を手にした翠寿は何もない空間に刃を立てている。
人狼のお嬢ちゃんには何もしてませんぜ。

そいつは〈護法円〉っていう結界でさァ。

水蛟の雷にだって耐えられる優れものでしてね。ただし内側から解除は不可能って代物で、こうやって相手の分断に使うこともできるんで

 どうする。

 日影の言う通りなら攻撃を加えても結界を解除するのは難しい。

 まずは葵と力を合わせて岩戸を倒し、それから日影をなんとかするか。

 いや、宿曜は厄介だと澪も言っていた。他にどんな術を持っているかもわからない。

 術の援護があれば岩戸を倒すのに時間がかかる。

 それなら機巧姫を諦めて――

おっさん、俺に掴まれ!

 逡巡していたわずかな時間に不動が中伊さんの元にたどり着く。

 ラグビーのタックルのように中伊さんの腰を捕まえ肩に担ぎ上げてそのまま走る。

 森に入り込んでしまえば追跡は容易ではない。

 澪からこの辺りの地形について説明を受けているアドバンテージもある。

おっと。思い通りにいくと思ってもらっちゃァ困りますねェ
不動、気をつけろ!
 日影が懐から何かを取り出すと不動へ向かって放った。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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