第22話5

文字数 564文字

 葵が知らないのであれば、知っている奴を探せばいい。

 慌てることはない。まずはこの世界を楽しもう。

 一つずつ目の前にあることを順番に片付けていくとしよう。

強いてあげるとすれば、この世界で多くのことを見て、聞いて、体験していただきたいと思います。

きっと主様の知らないことがあふれていますから

それは望むところだけどさ

 ふんわりとした笑みをどこかで見たような気がする。

 誰だったのだろう。

 こんな美人の知り合いなんていた記憶はないんだけど。

はあ……今日はもう疲れたよ。そろそろ寝ようか
はい
 うなずいた葵が帯を緩めている。
あのー、葵さん。何をしていらっしゃるので?
ですから寝る用意をと思いまして

 帯をほどき、袴と上着を脱ぐ。

 白い肌着一枚になると、布団の前で三つ指をついて頭を下げる。

よろしくお願いいたします
………………なにを?
ですから、床入りをするのでしょう?
 艶然と微笑むと、僕用に敷いてある布団に入ってしまう。
さ、どうぞ

 違うから!

 そういうのじゃないから!

 普通に寝るだけだから!

 なんとか誤解を解いて、葵を奥の部屋に追いやる。

 襖を閉めるときだ。

ああ、主様は優しく、そして初心なお方なのですね……それとも女を焦らして試していらっしゃるのでしょうか……はあ

 なんて色っぽい溜息が聞こえてきた。

 やっぱり、聞いていないことにした。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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