第66話6

文字数 794文字

 扉が三度ノックされる。
もうそんな時刻でしたか。

どうぞお入りください

 扉が開く。

 そこに立っていたのは長く美しい黒髪をしたアイドルも顔負けの美人だった。

 彼女の後ろには鮮やかに澄んだ青空の色をした機巧姫が寄り添っている。

あなたは――

 花咲くようなという形容がピッタリな笑顔。

 藤川様の娘、ほの香姫だ。

こうしてフブキ様にまたお会いできてうれしく思います。

これからはホノカも機巧操士の一人として、あなた様の背中を守らせていただきます

 そう一方的に宣言をすると、すすすと近づいてきて僕の手を取った。

 彼女の大きな瞳に唖然とした僕の顔が映っている。

末永く、よろしくお願いいたします。

フブキ様……いいえ。キヨマサ様

え? ええ? 

えええええええぇぇぇぇぇ~~~~!?

 澪の叫び声に頭を抱えたくなる。

 背後に気配がしたと思ったら葵が立っていた。今はちょっと振り返りたくない。

主様、このあと、少しお時間をよろしいでしょうか。

ええ、たいした時間は取らせません。ただ男性の甲斐性というものについてお話をしたいだけですから

あたしもヘキおねーちゃんみたいなおしごとしたいです! 

だから命令してください!

なぁ、兄貴。俺が機巧操士になったら模擬戦をしてくれよな! 

うおぉ! 今から腕が鳴るぜ!

キヨマサ様のお部屋はどちらでしょう。できればホノカの部屋は隣にしていただきたいのですが。

そうしたら……ふふ

そういうわけで手紙の返事が届いたから君たちに頼みたいことが――


 一度に話を振られて困っていると、澪と視線が合った。

 彼女は仕方がないなと言いたげな顔をしてから手を差し伸べる。

よかったら旅の汗を流しに銭湯へ行かない? 

そのあと、また笠置屋に行っておいしいお酒とご飯を食べようよ

 実に魅力的な提案だった。
ではこれで失礼します。

あとのことはお任せします!

 僕はその手を取って駆け出す。

 見たことのないものがあふれる世界へと。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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