第16話2

文字数 942文字

 澪、僕、葵の三人はお城の大手門を通って城内まで来ていた。


 翠寿は僕の脱いだ服の洗濯があるのでお留守番なのだとか。

 一緒に行きたがっていたから少しかわいそうだったけど、次に会ったときにはお土産話をいっぱいしてあげよう。

おぉ~。これが本物のお城かあ
そう。関谷の中心。志野(しの)城だよ

 志野城は丘を削って作られた平山城だ。日本では姫路城や小田原城、彦根城なんかが平山城として有名だろう。

 関谷国は山が多く平地が少ない。それもあって巨大な城下町を持つような平城を構築するには不向きだったのだと思われる。


 今は戦乱の時代。城を守るだけであれば強固な要塞となる山城が優れているが、山の上に主要な政治施設が固まってしまうと人の行き来がしにくく(まつりごと)に差し障りが出てしまう。

 そこである程度の防御力を持ち、また政治もしやすい平山城になったのではないかと推察できる。これなら商業活動が盛んという設定とも整合性が取れるしな。


 ただこの世界と日本のお城で大きく違うところは天守がない代わりに物見櫓があることだ。

 そもそも天守はお城の象徴という意味合いと遠方まで見渡すことができるという二つの要素がある。

 前者については為政者として尊敬を集めていれば問題はないし、後者は物見櫓があればいい。

 そもそも天守が一般的になったのは織田信長が建てた安土城以降だろうと言われている。

国王様は普段からこのお城で生活してるんだ
そうだよ。

武家屋敷があるから武士もお城の中で生活をしているんだけど、私みたいに操心館の候補生になった人たちはあっちで寝起きすることが多いかな

 石垣を築き、堀をめぐらした城内の守りは堅い。また人を管理する上でもまとまって生活をしているとやりやすいというのもある。

 それゆえ戦国時代後期以降の平山城や平城の多くは城の周囲に家来の屋敷を配置していることが多かった。そうしてお城の防御力を高めているわけだ。

 城内に畑や井戸を設置して長期戦に備えるお城もあったそうだ。


 曲がりくねった道や虎口(こぐち)によって区切られた場所は敵が攻めてきたときに簡単に重要拠点に近寄らせないための工夫だ。

 敵の足を止めさせ、壁の向こうから弓矢を雨のように降らせて出血を強いる。これは実用重視の城だった。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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