第13話1 少し歩くと森を抜けて整備された道に出る

文字数 809文字

 少し歩くと森を抜けて整備された道に出る。

 土を踏み固めただけの埃っぽい道沿いには延々と田んぼが続いていた。

 田植えはまだのようで土が掘り起こされている。そのせいかむせかえるような土の匂いがしていた。

この匂いがすると春って感じだよね

 今の澪はポニーテールをほどいて髪をおろしている。

 こうして見ると、澪も落ち着いて見えるから不思議なものだ。

どうかした? 

さっきから私の顔を見てるけど

あー、どうして髪をおろしたのかなと思ってさ。

いや、悪くはないよ。

髪をあげていたときは凛々しいって感じがしてたし、今はなんだかお姉さんって雰囲気だし

それ、ほめてもらってると思えばいいのかな
どう考えてもほめてるでしょ

 クスクスと澪はひとしきり笑ったあと、長い髪をかき上げる。

 先の尖った耳が見えていた。

もうすぐ城下町だからね。

人がいるからおろしたの

 なんだろう。うなじを見られると恥ずかしいとかそういうのだったりするんだろうか。


 長閑な道を進んでいくと、道沿いに生活道具や食べ物を広げている人たちがぽつぽつ見受けられた。

 並んでいる品を覗き込んでいる人も、蓆を敷いて座っている人も似たような着物を着ている。

 時代劇で見る農民の格好に近い。かなりくたびれた感じの着物が多いけど、着替えなど持っていなくて、基本は一着を着たきりだからだろうか。

もう目的地に着いたの?
お城はもう少し先。

あっちに塀と堀があるのが見える? あそこから先が城下町なの

 澪が指差す先には垣根が続いている。その手前に堀が掘ってあるのだろう。

 防塁において塀と堀はセットであることがほとんどだ。ところどころに櫓も見える。

耳聡い人たちは戦があったことを知っているのかもしれないね。今日は人が少ないみたい。

商人ってそういうところに敏感よね

そんなに少ないの?
いつもならもっとたくさんの人がいるもの
 澪は少ないと言うけど城下町の外にも露店の市ができているのだから十分に賑やかだと思う。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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