第49話1 根負けだ

文字数 691文字

 根負けだ。

 白糸様の純粋な気持ちに負けた。

大切なのは藤川様が知らない情報を白糸様が持ってきたことです。

これを功績にするには情報を持ち込む前に知られてはいけません

そうだな。

それは店主に頼めばいいのではないか

そこに一つ保険をかけておきましょう。藤川様への口利きを約束するのです。

あわせて白糸様も新々式の人形を発注します。できればモデル――誰かに姿形を似せたものがいいでしょうね

 保険とはいえこちらが切れるカードなど知れている。気休めにもならないかもしれない。

 だが相手がその条件に納得してくれるのならば問題はないのだ。

それならホノカの姿がいいだろう。

父上はホノカをかわいがっているからな

 そこまで可愛がっている娘を戦場に送り込むのをよしとするだろうか。

 藤川様は国王としての立場を全うしているから、その決断を下す可能性は高いけれど。

ところで口利きをするとどうして商人が黙っていてくれるのだ?
新々式を藤川様が認めてくだされば今後の商売がやりやすくなりますからね。

なにしろ人形が好きな藤川様のお墨付きです。あの方が認めた人形ならば手に入れたいと思う人は多いはずです

 このあたりは藤川様と井田様が話し合っていたことでもある。

 まだ価値が定まっていないものを権力者がこれは素晴らしいと言えば素晴らしいものになるのだ。

 価値があると思えば誰もが欲しがるようになる。しかもこれまでより安価で好みの人形が手に入るのだ。

 人形が欲しいと思っていた人はこぞって買い求めるだろう。

 そうなれば店主はウハウハ。

 そのためなら、もうしばらくの間、新々式のことを隠しておいてくれと頼んでも嫌とは言わないはずだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色