第12話4

文字数 921文字

 澪が足を止めて振り返る。

 〈門〉と言っていたけど、それらしいものは見当たらない。

 ただ巨大でまっすぐに伸びた木が二本立っている。まるで古くからある神社の鳥居のようだった。

ここでいいの?
ええ

 片方の木に澪が手を触れて何事かつぶやくと、二本の木の間に光の幕が展開した。

 おお、すごい。

 木の間の向こうの景色も光の幕を透かしてかすかに見えているけど、どういう原理なんだろうか。

 紅寿が先頭で飛び込む。

急いで。

すぐに閉じちゃうから

 手招きされたので、急いで紅寿の後に続く。

 葵が足を踏み入れたのを確認して、澪が最後に飛び込んだ。


 光の幕の先は真っ白な空間だった。

 上も下も左右も上下も白い。

 そのくせ足元はしっかりしている。


 先頭に立っている紅寿の背中を見失わないようについていく。

 踏みしめる地面が本当にあるのかわからなくて足元がおぼつかない。

 慎重に足を進めていると、手に触れるものがあった。

 見ると葵が手をつないでくれている。


 やがて白い空間にわずかな裂け目のようなものが見えてきた。

 それほど歩いていないと思うけど、〈門〉の反対側に到着したらしい。


 裂け目を抜けるとさっきとは違う森の中に出た。

 地面が見えて安心する。

 感謝の気持ちを込めて少しだけ力を入れてから手を離した。

 葵は僕の意図がわかったのか、うっすらと微笑む。


 振り返ると入ったところとよく似た二本の巨木が並んで立っている。

 その間から澪がぬるりと空間ににじみ出るように姿を見せた。


 今いる場所がどのあたりなのか、入った場所からどの程度の距離を移動したのかわからない。でもやっぱりこういうシステムがあると便利だな。

 広大なフィールドを歩き回るタイプのゲームなら移動のストレスを感じないですむ。


 どことどこが繋がっているのかとか、いつでも利用できるのかとか聞きたいことは山のようにある。

 だけど、何も見ないし何も聞かないし何も言わないと約束した以上、ここは我慢をするしかない。

……
うん、ありがと。先に行って報告をしておいて
 澪の指示を受けた紅寿はあっという間に走り去る。まるで風のようだ。さすがは人狼だな。
じゃあ、私たちも行こうか。

志野(しの)城の城下町に続く道はすぐそこだから

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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