第44話5

文字数 467文字

 不動を連れて笠置屋の縄暖簾をくぐった。
ふーん、いい感じの店だな

 どこかで聞いたことのあるようなセリフだった。

 席を確保して注文をするとすぐにお酒と料理が出される。

うーん、こんな味だったかなあ

 残念なことに、この日の料理とお酒は微妙だった。

 もっと感動するぐらい美味しいお酒のはずなのに。

これもいけるな
 不動は次々と料理を平らげ、まるで水でも飲むかのように杯を傾ける。
あのー、すみません。

紀美野さんはお休みなんですか?

 でっぷりとしたおばさんに聞いてみた。
そうなのよ~。

はー、忙しいいそがしい……

 おばさんは、ぶりんぶりんと大きなお尻を左右に振りながら行ってしまう。
十分うまいって。

はぐ、はむはむ……

 皿の上にあった料理は瞬く間に不動の腹の中に消えていった。


 不動はどれも美味しいと言ってくれたけど、なんとも微妙な気持ちで店の外に出る。

雨が降ってたのか

 細かく静かな雨なので店内まで音が聞こえてこなかった。

 せっかく買った傘は操心館の部屋に置いてある。

春雨だし、濡れていこうぜ
そうだね
 僕たちはしっとりと濡れた地面を蹴って駆け出した。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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