第42話2

文字数 909文字

勾玉が必要なのは人形師だけですからここには並んでいません。

普段は石を使った細工物を扱っております。

人形用にと買い求められるお客様もいらっしゃいますよ

 なるほど。つまり葵のために何か買っていかないかってことね。
わたしはお店の看板替わりなんです。

ほら、こんな風に

 紀美野さんはくるりと後ろを向いた。

 豊かな髪に美しい細工の入った簪が差さっている。模様は細かな石を使って描いているようだ。

この簪には勾玉を削る時に出た石の欠片を利用しているんですよ
とってもきれーです!
……っ
いいなぁ、素敵だなぁ。私も欲しいなぁ

 女の子三人は看板娘に夢中だった。

 他にも見せてもらおうと簪の置いてある場所に陣取り、あれがいい、これが綺麗だと盛り上がり始める。

せっかくだから葵も見ておいで。

欲しいものがあったら遠慮なく言ってね

 ふわりと頬んだ葵は澪たちの輪に加わる。

 その後ろ姿を男二人で見送った。

本当に美しい人形ですね。まるで本物の人間のようです。

古式の上物、あるいは神代式でしょうか。

もしも神代式なら私も見るのは初めてになりますが

他の方も神代式ではないかと言っていましたね
そうでしょう。

あの自然な仕草は古式を超えています。私が見た中では間違いなく一番の機巧姫です。

正直、フブキ様がうらやましいほどですよ

 中伊さんの表情を見る限り、それは決してお世辞だけではなさそうだ。

 機巧姫を持っていることが高いステータスになるのは間違いないらしい。

中伊さんは機巧姫を買い求めたりはされないのですか
こういう仕事ですから、あえて人形とは距離を置くようにしています。

下手に思い入れを持ちすぎてしまうと商品に対して純粋な評価を下しにくくなってしまいますから。

あの勾玉を使ったのならばもっとこう……などとね

なんとなくわかる気がします

 その感覚はゲームを作っていると純粋にゲームを楽しめなくなるのと似ているのかもしれない。

なにより人形は高価なものです。私の稼ぎではとてもとても。

おまけに国の外へは持ち出せませんしね

 純粋な戦力となる機巧姫の国外への持ち出しは固く禁じられている。それを破れば極刑は免れない。

 にもかかわらず欲しいと思わせるだけの魅力が機巧姫にはある。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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