第60話5
文字数 535文字
低く小さな声で澪が命令を下すと小さな影が飛び出した。
軽やかに僕の体に飛び乗り、弦走韋を張った胴の上に立つ。
そこで空を見上げているのは紅寿だ。
その遠吠えに応える声がある。
翠寿だ。
術が解けて動けるようになった翠寿が四つ足になってこちらへ駆けてくる。
するつもりなのか。
視界の隅にこちらへ迫ろうとする鶯色の機巧武者が映る。
まさか。まさかまさかまさか!
紅寿はちらりとこちらを一瞥する。
決意を秘めた表情。
そして胴から飛び降り駆け出した。
人狼では機巧武者に勝てない。
機巧武者に勝てるのは機巧武者だけなのだから。
肩を地面から引き剥がし、肘を使ってうつ伏せになる。
たったそれだけで目が眩む。
倦怠感が全身を包み、意識を手放しそうになる。
気を失ってしまえばこの姿を保てなくなります。そうすれば戦うことができなくなります
わかっている。僕がやるしかないんだ。
上体を起こしながら片膝をつく。
立った膝に手を当て、渾身の力を込めて立ち上がる。