第35話3

文字数 528文字

 入浴料とは別にお金を払って二階へ上がる。

 基本はお風呂に入った後に訪れる場所だけど、お金を払えば入浴しなくても二階に来られるらしい。

意外に広いけど天井は低いな

 お茶を飲んだり、囲碁や将棋を指したり、本を読んだりして、湯上りのひと時を談笑しながら過ごしている。

 火照った体を冷やすためかラフな格好をしている人が多い。

へー。ここは掲示板みたいな機能も果たしてるのか

 壁には今でいうところのポスターが張り出されている。

 日用品、食事などなど。これを見れば市井の流行はある程度把握できそうだ。

 お店の人にお願いをすれば按摩――マッサージもしてくれるらしい。色んなサービスがあるんだな。

 キョロキョロしていると女性が近付いてきた。

お風呂上りにお茶をどうぞ
ありがとうございます
 茶碗を受け取って、窓際の場所を確保する。
いい風が入ってくるなあ

 春の柔らかい雨はもうやんでいた。風呂上りの火照った体に風が気持ちいい。

 壁を背にしてぐるりと視線を巡らせると部屋の一角を囲んでいる人だかりが目に入る。

あ、もしかして……
 江戸時代の銭湯の二階にはお風呂場が覗ける窓が取り付けられていたのは有名な話だ。
下では落ち着いて見ていられなかったけど、ここからなら……
 ぐびりと喉が鳴る。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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