第21話6

文字数 930文字

翠寿はちゃんと澪の役に立ちたいって言ってただろ。

な、翠寿

うん。

あたしはミオさまにご恩をおかえししたいです

それはそうだったかもしれないけど……それに恩なんて返してもらわなくてもいいんだし……
考え方としてはレンタル――澪のところから翠寿を派遣してもらう感じかな。

翠寿を借りている間は僕から給料を払う形でどうだろうか

お給料とか関係なくて……

 澪の瞳が揺れている。

 冷静になり、整理して考えてもらえば問題ないはずだ。

 きっと自分のところから翠寿が出奔してしまうと勘違いをしているだけなのだから。

翠寿はこれからも澪の配下だよ。僕に仕えてくれている間もそれは変わらない。

その上でお給料は僕から翠寿に出す。いきなり三百石ももらったけど使い道ないしさ。それでどう?

 結局、僕は関谷の客将として蔵米三百石をもらえることになった。

 澪のような領地を持つのとは違い、いわば給料の形で三百石をもらえるわけだ。

 いきなり年収三千万ですよ。現実世界でもこれぐらいもらえていたら犬が飼えるマンションに引っ越してたんだけどなあ。

翠寿はそういうことを言いたかったんだよな
うん
うんじゃなくて、はい、な。

言葉づかいをちゃんとしないと本当の主である澪に恥をかかせることになるぞ

う――じゃなくて……はい
よし、いい返事だ
……本当に? 

本当にスイジュはどこかへ行ったりしない?

はい、ほんとです
キヨマサ君はスイジュにひどいことしない?
しないって。

っていうか、澪は僕のことをどう思ってるんだよ。まずはそこのところから話し合いをしないと駄目なのか?

 ようやく、澪の顔に微笑みが戻ってくれた。

 翠寿が離れていくことを恐れているみたいだったけど、過去に何かあったんだろうか。折を見て澪から教えてくれたらいいなあ。

じゃあ、スイジュのお布団はこっちに運んできなさい。

それでいいのよね?

奥の部屋を葵と一緒に使ってもらうから大丈夫。

葵もそれでいいよな

はい、構いません
翠寿もいいな
いいです。

だけどキヨマサさまをお守りするのなら同じ部屋のがいいです

それは却下します

 翠寿には澪の部屋の引っ越し作業を引き続きしてもらい、それが終わったら僕のところへ来ることになった。

 作業の引き継ぎは大事だ。物事は円満に進めるのが望ましいもんな。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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