第23話4

文字数 790文字

あの、主様?
あ、ごめん。

すごく似合ってるよ。とっても綺麗だ

ふふ、ありがとうございます。

主様にそう言っていただけると、吾も嬉しくなります

 澪は難しい顔をしながら葵に近寄ると、ぐるりと周囲を一周した。

 改めて正面に立ち、少し下がる。

 それから、うんと言いたげにうなずいた。

大丈夫みたいね。ちゃんとしてる
がんばりました!
 葵の後ろに控えていた翠寿が自慢するかのように少し胸をそらしていた。本当に翠寿はいちいちかわいいなあ。
澪と違って中に服を着ていないのは理由があるの?
機巧姫は勾玉が見えていた方が何かと都合がいいからだって聞いてるけど。どちらかというとあれが理由かなって思うわよね

 澪の視線は葵の胸の谷間に向けられた。

 そこには名前の由来となった勾玉が埋め込まれている。

きっとこの制服をあつらえたのはイダ様なんでしょうね。

なんだか視線がね、ちょっと気になる方だから……ここぞとばかりにこうしたんだろうなって

あー、なんかわかるかも……

 あの人、人形大好きっぷりを隠そうともしなかったからなあ。

 操心館という場所を用意して、そこに集まる機巧姫に自分がデザインした制服を合法的に着せる。そういうことをやっていたとしても不思議ではない。

 うん、ヘンタイ紳士の称号を差し上げるべきだな。

じゃあ、まずは食堂で朝食にしましょうか
 澪の言葉に、翠寿が「ひっ」と小さな悲鳴を上げた。
どうした、翠寿。

具合でも悪いの?

あの……あたしもいかないとダメですか?
駄目じゃないけど、僕と一緒にご飯食べるのは嫌?
ううん、それはイヤじゃないです。

ただ……ごめんなさい

 そりゃ無理にとは言わないけどさ。

 付き人――小者(こもの)といった方が適当かな。そういう立場だからって食事ぐらいは遠慮しなくてもいいのに。

葵はどうする?
吾は食事をとる必要がありませんのでここでお待ちしております
わかった。

じゃあ、澪と二人で行ってくるよ

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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