第52話4

文字数 674文字

ねえ、翠寿。

誰にも見つからないようにこっそり忍び込める?

できるです!
じゃあ、中の様子を見てきてもらえるかな。

無理はしなくていいからね

はいです!

 返事をするや否や、ひょいと自分の身長より高い塀を乗り越える。すごい跳躍力だ。

 そして音もなく中庭へ降り立ち屋内へと侵入する。

翠寿はなんでもできる子だなあ
 追跡に気配感知、それに潜入まで。

 これぞ忍びと言える活躍ぶりだ。

人狼はこういうの得意だからね。

その特技を買われて雇われてる一族もいるし

 おまけに忠義も厚いとくれば使い勝手は抜群だ。

 翠寿みたいな子を預けてくれている澪にも改めて感謝しなければ。


 待つことしばし。

 塀の向こうから影が飛び出し目の前に着地する。

 すわ、曲者かと思って腰が引けていたら翠寿だった。

は、早いね。

おかえり

ただいまです!
 跪いていた翠寿が顔を上げる。
結界がはってあったので、中にはいれなかったです
結界? 

そういうのって見ただけでわかるものなの?

とびらの目立ないところにお札がはってあったので。

たぶんそうだと思うです!

 なるほど。それならわかりやすい。

 現代日本でだってお札が貼ってあれば、そこに何かあるなと思うわけだし。

きっと宿曜の仕業ね……厄介な。

そもそもどうしてこんなところに結界なんて張ったんだろう。

どういう結界だったかわかる?

とびらにさわったら術者が気づくやつだとおもうです。だからギリギリまで近づいて音をきいてみました。

なかにいるのはナカイさんだけです

 宿曜は澪や翠寿と同じ八岐の一種族だったな。

 どうやらこの世界において魔法使い的な能力を持っていると思えばよさそうだ。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色