第59話2

文字数 587文字

気を付けなせェ。ありァかなりの上物。できればあれも手に入れたいところですなァ。

どうです、できやすかい?

腕の一本や二本はなくなっているかもしれんがな
 あっと思った時には目の前にいた。
遅い

 首をひねって刺突をかわす。

 吹き返しを穂先が削る。

 動いた勢いそのままに右回りに回転しつつ腰から刀を抜き、右足を踏み込みつつ横に薙いだ。

いない!?

 背中に衝撃。痛みに息が止まる。

 振り返ると後方へジャンプした鶯色の機巧武者が離れいていくところだった。

 こちらの回転に合わせて死角に潜り込まれていたらしい。

速い……っ
お前が遅いだけ――だッ

 左足に衝撃。太ももを守る佩楯がなければ貫かれていた。

 距離を取るために後ろへ跳躍する。

 相手の間合いにいたら一方的にやられるだけだ。

硬いな。だが我が槍が届けばいずれ貫けよう。

あまり傷をつけたくはないのだが仕方あるまい

 刀と槍が相対すれば攻撃範囲の広さで槍に軍配があがる。

 そこはゲームでも反映されていて、赤属性の刀は緑属性の槍に対して与ダメージが減り、被ダメージが増えるようになっていた。


 実際にこうして相対してみてつくづく思う。

 刀が槍を相手にするのは不利だ。勝てるビジョンが見えない。


 この世界へ来て初めての戦闘ではこんなことを感じなかった。

 同じ槍を持っていても、速さも強さもあの時とは比べ物にならない。

 それだけ目の前の敵が強いということだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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