第58話4

文字数 546文字

そうか。

それならまずあの男から殺す。そうすればこいつらも考えを変えるだろう

 岩戸の視線は草むらから足だけを出してバタつかせている中伊さんに向けられている。
一人殺せば皆殺しにするのと変わらんだろう
やめてくれ! 

僕たちは何もしないからそのまま立ち去ってくれ。

そちらは機巧姫を手に入れる。僕たちは誰も欠けずに帰る。それでいいだろう

そいつで結構――
気に入らん

 岩戸は振り回していた槍を勢いよく地面に叩きつける。

 連続して地面を削る音がする。

 地面が抉られ、大量の土砂が舞い上がる。

わぷ。

くそ、目が……葵! 中伊さんを保護してくれ!

はいっ

 地を蹴った音を残し葵が離れていく。

 間近にある何かの気配。

 気が付いた時には目の前にいた。

うぐ――っ
 わき腹を熱いモノが貫く。
まずは貴様からだッ

 衝撃で吹き飛ぶ。さっきよりも転がる距離が長い。

 体を丸めて衝撃を逃がす。まだ転がる。上下がわからない。

 気が付いたら空を見上げていた。

がはっ

 痛い。

 体が半分なくなってしまったみたいだ。

 お腹が熱い。

 全身から汗が噴き出す。

あがああああああああ!

 痛い、痛い痛い痛い痛い!

 痛みを発する場所に手を当てるとぬるりとした感触があった。

 熱いお湯がかけられているみたいだ。

俺の初撃をよくぞかわした。

だがそれではもう動けまい

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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