第46話4

文字数 884文字

それでも父上のように英明であれば国を富ますために様々なことができる。

土地を開墾し、商業を推奨し、水利を整える。どれも素晴らしい功績だ。

私はそんな父上を尊敬している

 藤川白扇様は業績を見れば優秀な統治者であるのは間違いない。

 たとえ機巧武者として戦場で戦えなくても国を豊かにしているのだから。

私も機巧武者になれないのならば、その方面で戦うしかないだろう。でも、もしもまだ機巧操士となる可能性が残っているのならばそれに賭けたい。

どうだ、フドウよ。私と一緒に人形の店に行ってみないか。そこで私やお前を連れ合いとして認めてくれる機巧姫を探し出そう

 不動の顔がみるみる赤くなる。

 怒りではない。それは歓喜のあらわれだ。

はい! はいっ、喜んで! 喜んでお供いたします!
そうか。ありがたい。

実は供の者に黙って城から出てきてしまったのだ。しばらくはフドウに護衛を頼んでもいいだろうか

勿論です! 

命に代えてシライト様を必ずお守りいたしますっ

 それから白糸様は僕を見る。

 その表情は、これでいいのだろうと言っていた。

 間違いなく満点の態度だった。

国を治める者に相応しい態度だったと思います。

ところで、先ほどのお話の中に供の者を置いてきたなどという不穏当な発言があったような気がするのですが……

う、それはだな、私はこれまで一人で城下町に出たことがないのだ。

かといって人形を見に行くと言えばイダあたりがいらぬ口を挟んでくると思ってな

 確かに井田様が耳にしたら、それこそ店にある人形を全部お城へ持ってこいとか言い出した可能性もある。
ではお忍びということですね
そうなるな
だったら、その格好はよくないですね。

もう少し目立たないようにしないと

そんなに目立つだろうか
体格は僕たちとそんなに変わらないようですから予備の制服に着替えましょう。

不動は制服の保管場所がどこか知ってる?

ああ
じゃあ、白糸様に合う大きさのを持って僕の部屋まで来てくれるかな
わかったぜ、兄貴!

 言うや否や走り出す。

 それを見送ってから手をあげて離れた場所で待ってくれている澪たちを呼び寄せる。別れ際、澪にはいくつかお願いをしておいた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色