第53話1 人狼というのは本当に素早いことですね

文字数 652文字

人狼というのは本当に素早いことですね
当然よ
 感心する葵の言葉に澪は得意げな顔をした。
それよりも、どういうことなのかちゃんと教えてくれるんでしょうね
勿論だよ。澪の力も借りないといけないしね。

できれば不動にも手伝ってもらいたいんだけど、まずは情報収集からかな。歩きながら話そうか

 見張りがまだいるだろう通りは避けて長屋の反対側に出ることにした。

 狭い路地を抜けていく。

情報収集ってなにをするの?
いろいろだよ。

操心館へ戻る前にまずは津島屋(つしまや)へ寄っていこう

津島屋って?
人形を売ってるお店だよ。

昨日、そこで中伊さんを見かけたからさ

 中伊さんは明らかに様子がおかしかった。

 あの時点では情報が全くなくて推測も何もできなかったけど今は違う。

そもそも中伊さんって人形とは距離を取っていた人だったでしょ。下手にのめり込むと扱っている勾玉を見る目が曇るからって。

だから人形を売っている津島屋に来ることすらおかしいと思ってさ。

何らかの事情があったんだろうね

 入居者募集の札がかかる長屋木戸をくぐって入ったのとは反対側の通りに出た。

 自然と早くなろうとする足の速度を意識して落とす。僕を追い越してしまった澪も足を緩める。

どうしたの? 

急ぐんでしょ

反対側に出たけど僕たちを見張っている奴もいるかもしれないからさ。

警戒するに越したことはないかなって

 歩きながら後ろに視線を送ると、葵は小さく横に首を振った。

 僕には気配感知の能力がないから、こういうのはすべて他人任せになってしまう。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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