第7話4

文字数 968文字

ですから夢ではありませんと言っているではないですか。

主様は意地悪です

 声の主に視線を向ける。

 葵の小さな唇がぷっと突き出されていた。

 かわいい。なにこれ、反則だろ。


 今までそっち方面に興味なかったんだけど、彼女の表情や態度を再現できるドールがあるのなら真剣に購入を検討してもいいかもしれない。

 それぐらい葵の表情は自然で、人間そっくりで、とても人形には見えなかった。


 彼女が伸ばした手が僕の胸に触れる。

何?

 葵は勝ち誇ったような顔をしていた。

 本当に人形なのだろうかと思うほどクルクルとよく表情が変わる。

ほら、こうして触れられるではありませんか。

ですから、主様は間違いなくここにいるのです。

吾がこうして膝枕をしているのです。

決して夢などではありません

 今度はふふんとでも言いたげな自信満々な表情。

 こうも自然な様子を見せられると、ゲームのために設定した機巧姫という存在は、僕が思っていた以上に人間に近いものだったのかもしれない。

そもそも葵はどうしてここにいるの?
それは主様がいらっしゃるからです
質問が悪かった。

えーと、僕はまず何をすべきなんだろう

 夢なら夢で唐突な展開はあってもいい。

 異世界転生モノのお話なら神様の手違いで死んでしまったからその謝罪を兼ねてだとか、ゲームのサービス終了を待っていたらいつの間にかとか、世界を救う力あるものとして召喚をされたとか……いろいろと異世界へやってくる最低限の理由付けがある。


 ゲームであればスタート後の定番の流れというものが存在する。

 まずはチュートリアルの戦闘だ。

 主人公を活躍させ、システムの爽快感を理解してもらいゲームを継続して遊ぼうと思わせる重要なパートとなる。

 これは既に経験させてもらった。その意味では満点の導入だったと言っていい。


 次は仲間を増やしてパーティを編成させる。

 ゲームでは強いキャラがくるまでリセットを繰り返すこともあるけどこの点も問題ない。既に葵の君という頼りになるパートナーがいる。


 その次にくるのはキャラクターの強化や成長要素の説明あたりだろうか。

 戦闘で経験値を得たり、育成素材を使って成長をしたり。そこはゲームによって異なる部分だ。


 そうして遊び方を一通り説明し終えたらメインストーリーを進めるように促すというのがお定まりだ。

 つまり、いよいよ物語が始まる。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色