第37話4

文字数 902文字

ところでぇ、キヨマサ君ってさぁ……あのこと、本気なのぉ~?
 いきなりしな垂れかかってきたきたかと思うと、トロンとした上目遣いで見つめられる。触れている肌が熱い。
あのことってなんの話?
えー、そういう態度とるんだぁ。ふーんだ
別に誤魔化すつもりはないんだけど、どの話をしてるの?
ふーんふーんふーん。そうなんだー。まぁ、別にいいんですけどぉ。そういうつもりはないんだろうなってわかってたしね。残念とか思ってないし。本当に。本当よぉ? 

でもさぁ、あんなことされたらさぁ、女の子としてぇ、ちょっとドキっとしたっていうか、本気にしちゃいたいなーって思ったりして。うふふー、いいけどねぇ。うん、夢ぐらい見たっていいよねぇ……

 何が言いたいのかさっぱりわからない。

 どうせ酔っ払いの言うことだ。本人だって何を言っているかわかっていないのだろう。

 酔っぱらってグデグデしている澪の相手をしているのはそれなりに楽しいけど、あまり長居をして店の迷惑になってもいけない。

ほら、そろそろ帰るよ。

支払いはすませておいたから

えぇ~。ここは私が払うよぉ。おねーさんなんだし、任せておきなさいって。

たしかここにお財布が……あれ? あれれ? 入ってない?

財布はもういいって。支払い終わってるんだから。

ほら、店を出るよ。

自分の足で立つ。無理なら肩を貸すから

いいけどぉ、次のお店は決まってるのぉ~
次の店はない。操心館に帰るんだよ
えぇー、まだ飲んでもいいでしょぉ。飲んでいこうよぉ~

 駄目だ、この酔っ払い。

 立たせたら生まれたての小鹿かってぐらいグラグラしているし。

しょうがない。

ほら、腕を僕の首に回して。持ち上げるからな。よっと

わぁ、な、なにするのぉ。びっくりするじゃない。

ふあー、浮いてるみたい。ふわふわしてるぅ~

 軽々と澪を抱き上げる。ちっとも重いと思わなかった。我ながらこんなに腕力があったのかと驚くほどだ。

 不動との力比べでも思ったけど、今の僕はかなりの身体能力を持っている。

 周囲の視線はあえて無視する。顔が赤いのは酔っているせいだ。

じゃあねぇ~。またくるからねぇ
 こんなに酔っぱらって周囲に迷惑をかけておいて、また来るつもりなのかよ。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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