第54話2

文字数 666文字

先日のお話ですと機巧姫を求めた人がいたそうですが、購入したのはこの国の機巧操士ではないのでしょう。

少なくとも操心館でそういった話を耳にしていませんし

……参りましたな
 余計なことを口にしてしまったと言いたげな苦々しい顔だった。
人形雛では満足できず、どうしても機巧姫が欲しいという需要があるのは理解します。とはいえ、そういう人が多くないのも事実。

でしたら優先的に操心館に回していただけないでしょうかという提案なのです。

在庫として抱え込むより確実に売れる方がよいのではないかと思うのですが

それは確かにその通りでございます。

ですが機巧姫は非常に高価ですから……お安いものでも数千万圓にもなりますもので

操心館を運営されているのは藤川様ですから、その点はご安心ください
な、なるほど……

 要するに国の庇護下で機巧姫を卸す御用商人にならないかというお誘いなのだ。

 もともと藤川様や井田様は太い客であっただろうけど、これからは国として取引をしようというのだから損はない話だと思う。

ねぇ、そんな話をキヨマサ君がしても大丈夫なの?
実はね、この件は既に広幡様に相談済みなんだ

 不動から相談を受けた時、機巧姫の入手ルートの確保は速やかに行う必要があると判断した。

 いつまた敵の機巧武者が攻めてくるかわからない状況で、一手の遅れが致命的なことになりかねない。

 今すぐ不動たちが機巧操士になれないとしても機巧姫を確保しておくことには、先々を考えれば十分に意味がある。

 だからその日のうちに広幡様に相談をして藤川様から好きにしていいという言質を取ってもらったのだ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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