第37話3

文字数 942文字

 ハイペースで飲み続けるのでお酒に強いものだと思っていたら、二本目を空にしたところでぱたりとひっくり返ってしまう。

おい、澪。澪ってば。大丈夫か
らいりょうふ、らいりょうぶぅ~。

れんれんよってまへーん

 酔っぱらいの酔ってない発言ほど信用のおけないものはない。
ほら、お水をもらったから飲んで。

まったく、自分の酒量ぐらい弁えておかないと

はいはい、申し訳ありまへぇーん。

ろうせ私は自分がどのくらいお酒が飲めるかもわかってない小娘なんですよぉだ。あははは~

 拗ねるなよな、もう。

 もっとも、こういうのは失敗をしながら覚えていくものだからクドクドは言わないさ。かくいう僕も酒の席での失敗談には事欠かないんだし。

んくんく……ぷはぁ。

あー、お水もおいしー

お酒を飲むときは一緒に水分を取るといいんだよ
へぇー、そうなんだ。キヨマサ君はなんでも知ってるんだねぇ。

火打ち石の使い方は知らないのにぃ。んへへへ

 悪かったな。

 タバコを吸わないからマッチだってまともに扱う自信がないぞ。だって墓参りで線香をつけるときぐらいにしか使ったことがないからな。

私のほうがキヨマサ君よりも年上なのにねぇ。

もっと頑張らないとなぁ。

自分では頑張ってるつもりなんだけど、世の中ままならないよねぇ……はぁぁ

別に頑張らないでもいいと思うけど。

できることをしっかりやればね

そのできることっていうのがキヨマサ君の方が私よりもずっとすごいから落ち込んでるんじゃない
落ち込んでるの?
うん、たぶんね。

私には機巧姫がいないからなのかなぁ。

それなら水縹が直ってくれて、私を連れ合いとして認めてくれたらキヨマサ君と同じ条件になれるってこと? 

そういうものなのかなぁ。

嫌な人相手に文句のひとつも言えないっていうのに……情けないよ

でもさ、僕は動けなかったところを澪に助けてもらったからね。澪は僕にできないことができるんだよ。

あとこの町にも連れてきてくれたし、お城では国王様に一緒に会ってくれたし、操心館を案内もしてくれた。すごく助かってる

ふーん……そうなんだぁ。

キヨマサ君も助かってるんだ……よかった。えへへ

ほら、お水も飲んで
ん。ンくンく……ふぅ。

あー、今日はなんだか暑いよねー

 とか言いながら胸のとこを持って上着をパタパタしない。周囲の目もあるんだから。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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