第11話2

文字数 661文字

 そんなことを話し合っていたら、すっと葵が前に出て僕をかばうように立つ。
どうしたの?

 問いかけには応えず、葵は正面をじっと見ている。

 視線の先には何もない。風に揺れる草むらがあるぐらいだ。

何者ですか

 葵の声に促されたのか、草を踏む音を立てながら忍装束の小柄な人物が姿を見せる。

 葵に誰何(すいか)されるまでは全く気配を感じさせなかったのに。わざと音を立てて出てきたようだ。

あ、コウジュ! 

無事だったのね!

 澪が駆け寄って抱きしめている。

 おそらくは澪が言っていた優秀な忍びだろう。

大丈夫だった? 

ケガとかしてない?

 そう言いながらペタペタと相手の身体を触っている。

 僕のときと同じ展開だ。きっと澪は誰に対してもこうなんだな。基本的にいい人なのだと思う。

 ただ異性の身体をペタペタ触りまくるのはそのなんだ。ご遠慮願いたい。


 忍びの衣装は澪のものによく似ているけど色が茶色っぽい。木の幹に溶け込みやすい色にしているのかもしれない。

 ちなみに現実世界では黒色の忍装束というのはなかったらしい。

 理由は簡単で、黒だと昼間は逆に目立ってしまうから。紺色や茶色、柿色なんかが多かったという記述を読んだことがある。


 忍びは澪よりも小柄な女の子だ。

 明るい色合いのふわふわの髪は肩のあたりでばっさりと切り揃えられている。

 そして何よりも気になるのが――

犬耳?

 そう、彼女の頭にはモフモフとした犬のような立派な耳が生えていたのだ!

 まさかまさかまさか!

 この世界ではケモノ娘もアリなのか……なんということだ。

 業が――いや、懐が深すぎる!

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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