第9話1 ここには複数の機巧武者がいるって聞いていたんだけど

文字数 714文字

ここには複数の機巧武者がいるって聞いていたんだけど……
三体いたね
はい。

主様であればあの程度は障害にもならないでしょう

信じられない。

葵の君がいくらすごくてもそんなのって……

――主様の戦果に不満があるのですか?

 冷たい声だった。

 言われたのが僕じゃないのに、背筋がヒヤリとするほどだ。

い、いえ、そんなことはっ。

ただその……すみません!

 澪は両手をついて頭を下げている。

 土下座だ。なかなか堂に入った土下座だった。

頭をあげてよ。

別に怒ってるわけじゃないんだから。

な、そうだろ、葵

……
葵も機嫌を直してよ。

そんなに腹を立てることもないだろ

そうは参りません。

主様は確かに首級(しるし)をあげました。初陣にも関わらず三つもです。

それを賞賛こそすれ疑うなど。許されることではありません

本当に申し訳ありませんでしたっ

 地面に頭がめり込むんじゃないかという勢いだ。

 明らかに土下座慣れしている。どんな慣れなんだ、それは。

ああ、もう。澪も頭を上げてくれって。こっちが居心地悪い。

葵もそこまでにしてよ。

僕を動けるようにしてくれたのは澪なんだしさ

……確かにそうですね。

申し訳ありません

 葵は頭を下げ続けている澪の手を取った。

 おそるおそるという感じで澪が顔を上げる。

主様のことで少々言葉を荒げてしまいました。申し訳ありません。

それに主様を癒していただいたお礼もまだしておりませんでした。改めてお礼申し上げます

い、いえ、私の方こそすみませんでしたっ

 また土下座しようとするのを押しとどめる。このままだと繰り返しになりかねない。

 僕のために葵は腹を立ててくれたみたいだけど、いきなりで驚いた。

 あと澪も土下座はやめて欲しい。僕が一方的に悪い奴みたいだから。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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