第14話3

文字数 777文字

あまり強いとは思いませんでした。

個々の能力もそれほど高くはなく、動きの連携もありませんでしたし

 まるでゲーム開始直後に発生する戦闘の進め方を理解させるためのチュートリアル戦闘のような容易さだったとでも言えばいいか。
装備はどのようなものでしたか
素槍に前懸胴の簡易なものでした

 着背長(きせなが)という美名が残る大鎧や実用性を追求し用の美を持つ当世具足よりも足軽の格好に近いというか。端的に言えば雑という印象がある。

 館長の視線が澪に向けられる。

ヒロハタ様たちが戦った機巧武者も前懸胴に素槍でした
色はどうでしたか
柔らかな黄緑色でした。

苗色(なえいろ)より明るい感じの

僕たちが戦った機巧武者も似たような色だったと思います
ふむ。これはもしかすると噂は本当だったということでしょうか
 そう呟いた館長は難しそうな顔をして腕を組む。
急いで結論を出すこともないですね。今は目の前のことから順に片づけていくことにしましょう。

まずはフブキ様に感謝をさせていただきたい。我が国の民を守っていただき、ありがとうございます

目の前の不幸を見逃せなかっただけのことですから

 それでも失われた命はある。

 そのことを深く考えることはしないようにしていた。人の死を抱え続けることは不可能だと知っているからだ。

相手が弱かったとおっしゃいましたが、単旗で複数の機巧武者を倒すとはかなりの使い手とお見受けいたします。

ですが、フブキという名は寡聞にして存じ上げません

……実は見聞を広げるために故郷を出たばかりでして
フブキ様は城陽のご出身だそうです
城陽、ですか

 血の気が引いていくのがわかる。

 城陽の領主の名前を聞かれたらどうしよう。流石にそこまで設定してなかった。

 そもそもゲームではストーリーに登場しない国名まで決めたりしない。

 プレイヤーにオープンにされない設定を作っても無駄になるからだ。


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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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