第6話2

文字数 780文字

 何人生き残っていたのかわからないし、知りたくはない。

 僕にできた最善のことをしたとは思うけど、既に命を失った人を助けることはできないのだから。

 それに移り住んだ先で生き延びた人たちがちゃんと生活できるかもわからない。

 でも生きていられてよかったと思ってくれたのなら、僕がしたことは間違っていなかったのだと言える。そう思いたい。

同行をすすめられたのですが、主様のことがありましたのでお断りをしました。

問題なかったでしょうか?

構わないよ。

むしろ僕の方こそごめん。肝心なときに役に立たなくて

いいえ。むしろ助けられたのは()ですから。

ありがとうございます

 とりあえず、ほっとすることができた。

 急場をしのげたのだからよしとしよう。

 そうすると途端に気になることができた。

 彼女は僕を頭頂部方向から見下ろしている。

 そして頭を包む柔らかな感触。

 この二つから求められる答えは――

もしかして膝枕してもらってるとか?
はい

 不吹清正さん、正解です。

 ご褒美は美女の膝枕となります!


 改めて実感する。後頭部が触れている柔らかい部分。

 女性の太ももというのはなんと優しい感触なのだろう。頭だけでなく心まで包み込まれるような安心感があった。

 このままずっと横になっていたくなる。

まだお疲れのようですから、ゆっくり休んでください

 優しく囁かれると、なぜだか心の奥底がざわめく感じがする。

 どうしてだろう。

 彼女とは初めて会ったはずなのに。初めて聞く声のはずなのに。

 僕の魂が彼女のことを知っていると叫んでいるかのようだ。

 いや、きっと気のせいだ。そうに違いない。

 自分に言い聞かせながらつぶやいた。

ああ、空が青いな

 降り注ぐ柔らかな日差しに目を細める。

 さっきまでの騒ぎなどまるでなかったかのような穏やかな空を渡っていく二羽の鳥が見えた。はらりひらりと桜の花びらが舞っている。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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