第51話1 今日も笠置屋の縄暖簾をくぐる

文字数 678文字

 今日も笠置屋の縄暖簾をくぐる。

 これはもう常連と言っても過言ではないだろう。

 最初の印象というのが良すぎたのだから仕方がない。

 あのお酒と食事が提供されるのならば毎日だって通おうというものだ。

 昨日の食事は少し残念だったけど、そんな日だってあるさ。

いらっしゃ~い!

 昨日と同じおばちゃんの威勢のいい挨拶に笑顔を向けながら席を確保する。

 心なしか今日のお客さんの入りは少ないようだ。

今日はなんにします?
おすすめをいくつかとお酒を一本。

紅寿は飲める?

 ふるふると頭が横に振られた。
じゃあ、杯は三つで
あいよ~!
この店は兄貴のお気に入りなのか?
そうだね。

澪に紹介してもらってから毎日のように来てるよ

そっか。

昨日の飯も悪くはなかったしな

初めての時はお酒も料理も感動するぐらい美味かったんだけどね

 昨日は紀美野さんがお休みだったそうだから仕方がない。

 しかも連絡もなく急に休んだという話だから少し心配だ。

そういえばスイジュは一緒じゃないの?」
ちょっと別行動をしてもらってる。

翠寿は僕がどこにいてもわかるって言ってたんだけど

 言いながら紅寿を見ると、こくりと頷いた。

 銭湯にいた僕たちを紅寿が見つけてくれたように翠寿もこの場所を見つけてくれるだろう。

はいよ~、お待たせ!

 まずはお酒をいただく。

 紅寿以外が杯を傾けた。

うーん……
なんか味が落ちたような気がするね
 美味い不味いで言えば美味い。でも初日の感動とは程遠い味だ。
そうなのか? 

これはこれで悪くないと思うぜ

いつもはもっと美味しいんだよ。

この町で一番って言っていいぐらいなのに

 憤るように澪は杯をお盆の上に置いた。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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