第12話2

文字数 810文字

改めて、さっきはごめん。

別に危害を加えるつもりはなかったんだ

……

 澪のすぐ後ろに立って様子を伺っている犬耳娘に頭を下げる。

 彼女の尻尾は高く上がり、うねうねと蛇行していた。

 警戒されているっていうか、むしろいつ襲い掛かられてもおかしくない状態だ。

コウジュ、キヨマサ君も謝ってるでしょ。

あなたも謝りなさい

 紅寿と呼ばれた犬耳娘は不満そうに澪を見上げている。

 尻尾の動きも変わらない。

コウジュ

 表情は全く変わらない。

 けれど、尻尾が垂れて、ゆっくりと左右に揺れている。

本当にごめん。ちょっと調子に乗ってた。

許してほしい

 両手を合わせて拝むようにする。

 ここは澪みたいに土下座の方がいいのだろうか。

 あんなに綺麗な土下座にはならないけど、誠意は見せられるかもしれない。

コウジュ

 三度言われると、ペコリと僕に向かって頭を下げてくれた。

 けれど警戒は続いているようで、澪の後ろに隠れてしまう。

 そして相変わらず伺うように僕を見ている。

 しまった。完全に嫌われてしまった。

この子、もともと人付き合いが上手じゃなくて……でもいきなり人に手をあげ――足蹴にすることなんてないの。

私の知る限りあれが初めてで……それは信じてくださいっ

 がばりと澪が頭を下げる。

 まるで立位体前屈をするかのような下げっぷりだった。

 これって土下座の一歩前ぐらいの謝罪なんだろうか。

そんなに頭を下げないでって。さっきのは僕が悪かったから。

彼女――紅寿だっけ? 紅寿は何も悪くないんだからさ。気にしないで欲しい。

むしろごめんな。僕も悪気はなかったんだ

 本当にすまないと思っている。

 ちょっとモフモフしたかっただけで、悪気とか一切なかったから。

そういえばまだ澪に治療をしてもらったお礼を言ってなかったな。

治してくれてありがとう

ううん。それはこの子の主人として当たり前のことだから

 部下の失敗は上司の責任というのをよく心得ているらしい。

 さすがは知行持ちの領主様だ。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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