第2話2

文字数 850文字

おかげでこうして一方的に奴らを射抜ける

 ビィンと弦が鳴ると彼方で鈍い音がする。

 手ごたえがあったのだろう、深藍の機巧武者の馬手(めて)がぐっと握りしめられた。

お見事です
この程度は当然だと言った。

機巧武者として初陣のお前には負けられんからな。

いいか、一番手柄は俺がもらう!

 いつもと変わらない景虎の威勢の良さに、澪は思わず微笑ましい気持ちになった。

 景虎とは過去にいろいろとあったが、彼は間違いなく優秀な侍だ。

 戦場で安心して背中を預けられるぐらい頼りになる。

そうはいきません。

弓の技量なら私の方が上なのですから

そうです。なによりミオには私がついています。

ミオがこの水縹の連れ合いである以上、他の者に後れを取るはずがありません

 顎を軽く反らして、ふふんとでも言いたげな水縹の姿が思い浮かぶ。

 彼女の何事につけても自信ありげなところを澪は嫌いではなかった。


 泥濘に足を取られながらも敵の機巧武者が坂道を駆け上がろうとしている。

近寄らせるなぁ! 

放てぇ、放てぇぃ!

 指揮官の広幡の声はこの雨の中でもよく通る。

 成果を確認する間もなく次々と矢を放つ。

あらあら、無駄の多いことですね。

仕方がありません。皆様に弓の神髄をお見せいたしましょう。

弓とは必中をもってよしとしなければ

 放たれた矢がスバンと小気味いい音を立てて敵に命中する。
ほら、この通りに。

無駄な矢を放つだけの余裕はありませんよ。

そもそも弓術師範であるわたくしが皆様に後れを取るはずがないのですけれど。

うふふふ

 まるで雨を弾いているかのような冴えた青色をした孔雀青(くじゃくあお)縅の機巧武者が二人の後方から再び矢を放つ。

 ヒョウという音を残すと敵の額を射抜いていた。

 頭から矢を生やした機巧武者はその場で両膝をついて身動きしなくなる。

 この視界の悪い中、小さな的を狙える技量に味方から感嘆のため息がもれる。

これで四つ。

この分ですと一番手柄はわたくしではないかしら?

 孔雀青の機巧武者を駆る明見(みょうけん)(えみ)が余裕たっぷりに言い放つ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色