第12話1 空は青かった

文字数 811文字

 空は青かった。

 鼻をくすぐる草木の匂い。

 そして頭は柔らかなものの上にある。

お目覚めになりましたか
葵か……えーと、また膝枕してもらってる?
はい

 ふんわりと葵は微笑んでいた。

 その表情に何故だかほっとする。

 帰るべきところに帰れたかのような安心感があった。

あの、あのあの、ごめんね、うちの子がまさかあんなことするなんて思ってなくて、いきなりのことだったけど、でもでもさっきはキヨマサ君も悪かったと思うっていうか、あんな顔して近づいたら誰だって危ない人だと思うだろうし、私もあんな顔されたら身の危険を感じちゃうし、実際、うわぁって思ってたし、そりゃいきなり蹴ったりするのはよくないことだけど、しかもそのなんていうか男の子の大事なところを思い切り蹴ってたし、そしたらキヨマサ君が泡吹いて気絶しちゃうし、急いで〈手当〉は使ったからきっと大丈夫だと思うよ、大丈夫だといいな、もし使えなくなっていたらなんて謝ったらいいのか……だから、あの、ごめんなさい!
いや、こっちこそ、その……ごめん。

あんまりに彼女がかわいかったから我を忘れちゃって

 既に痛みはない。さすがは癒しの技能だ。きっと大丈夫だろう。

 さっきの澪の謝罪のセリフの中にいくつか気になる単語があったけど、全面的に僕に非があったのだから甘んじて受け入れるべきだ。

 上体を起こす。うん、めまいとかもしないし大丈夫そうだ。

 身体の動きを確かめるように、ゆっくりと立ち上がる。

……大丈夫?

 心配そうに澪が問いかけてくるけど、まずは確認をしよう。

 ぴょんぴょんとその場でジャンプしてみた。

 痛みなし、違和感なし。

 うん、大丈夫だろう。

大丈夫みたいだ

 ……まだ実戦経験もないのに使用不能になってないといいなあ。

 心なしか僕を見ている葵の表情が余所余所しいようにも感じる。

 あれだよね、いきなりあんな態度を主人がとっていたら、この人についていっていいか疑問に思うよね。

 ……ごめんなさい。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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