第29話1 機巧武者の姿を解いた梅園さんは意識を失っていた

文字数 661文字

 機巧武者の姿を解いた梅園さんは意識を失っていた。

 まるで大雨に打たれたかのようにぐっしょりと全身に汗をかいている。

 澪が〈手当〉を使うと言ったのだが、脇に立つ深藍の君はただ黙って首を左右に振るだけだった。

 それから僕たちに対して深々とお辞儀をすると、大きな体の梅園さんを肩に担ぎあげた。背を向けて本館へ歩いていく。

 僕たちはその背中を黙って見送った。

深藍の君の修理が終わり次第、入れ替わりで砦に向かう予定になっているのですが、彼にはよい経験になったでしょう。初陣の出来事で少々自分を見失っていたようですからね。

この模擬戦を教訓に、彼はより強くなると私は信じていますよ。

なにしろ彼には侍としての矜持がありますから

 館長は目を細めながら二人の姿を見送っていた。

 その視線がこちらを向く。

さすがはフブキ様と言ったところでしたね。あの動きには目を見張りました。

私が現役であれば一手御指南していただきたかったところですが、引退した身が残念でなりません

 そう微笑みながら、館長もこの場をあとにした。
……なんていうか、兄貴って優しいんだな

 今の戦いを見た感想がそれなのかと思って不動の顔を見る。

 意外にも彼は難しそうな顔をしていた。

正直に言うとさ、俺はあいつが気に入らない。

なんかすげー偉そうにしているし、なにかと俺たちを馬鹿にした態度をとるからな。

だいたい初日にケンカになったのだって、あいつの態度が悪かったからなんだ

あ、あたしも……好きじゃない、です

 翠寿はパタリと耳を後ろに倒していた。尻尾も力なく垂れている。

 不安なのだろう。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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