第59話1 混濁していた意識が急速に覚醒していく

文字数 570文字

 混濁していた意識が急速に覚醒していく。

 頭の芯まで澄み切っている。


 同時に冷静な部分が告げていた。このままでは長くないことを。

 それでも。でもだからこそ。やれることをやらなければ。

 圧倒的な力がみなぎってくる。でもこの力の限界は近い。


 地上を見下ろす。

 依然として不動は絡めとられたままだ。

 中伊さんも草むらでもがいている。翠寿はまだ結界に閉じ込められていた。


 そして日影と岩戸だ。

 日影が担いでいた機巧姫を岩戸に押し付けているところだった。

 手分けをしてバラバラの方向へ逃げるつもりか。

 それでもいい。確実にどちらかを倒す。


 次の瞬間、目の前に二体の機巧武者がいた。

な、に――!?
 一方は紅樺色で威された機巧武者。武具は腰に刀を差しており、もう一方は鶯色で手には槍を持っている。
まさか!?
こういう展開は想定していなかったが悪くない。むしろ武士の本懐とも言える。

存分に楽しませてもらおう

 鶯色の機巧武者が進み出て、左前で槍を構える。
面倒事は避けたかったんですがねェ。

こうなりゃ仕方がありァせん。このことを知られた以上、きっちり片を付けやしょう

 信じられなかった。

 出会ったばかりの機巧姫と共感することができるだなんて。


 だが目の前に二体の機巧武者がいるのは間違いない。

 それぞれの色は中伊さんが購入した機巧姫のそれと一致しているのだから。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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