第61話2

文字数 601文字

ここだよ!

 開けた場所に出た。

 かなり広く、見渡す限りが人の背丈ほどある草で地面が覆われていた。

 ところどころに水が溜まった場所もある。

 急制動をかけると踝のあたりまでぬかるんだ地面に埋まった。

あまり奥までいかないでね。

ここは動物だってめったに近寄らない場所なんだから

ごほっ、ごほ、ごほ……

 眩暈がする。それに足元が覚束ない。

 大きく息を吸い込んで、それからゆっくりと吐き出した。

 土の匂いを感じる気がした。

 ケモノにまたがったままの澪が近づいてきて機巧武者の足に触れる。

二人は……大丈夫かな
コウジュたちには時間稼ぎをしてもらっただけで、危なくなったら必ず逃げるように言ってあるから。

だからきっと大丈夫だよ

 それでも危険な役目を負わせてしまった。

 僕がもう少し上手く立ち回ることができていたら彼女たちにそんなことをさせずに済んだのに。


 背後から大きな足音が迫りつつある。

あとは……お願い
澪たちは安全な場所まで離れていて。

あ、そうだった。見えないかもしれないけど、お腹を槍で刺されてちょっと痛むんだ。だからこれが終わったら澪の能力で癒してくれると嬉しいな

わかった。約束する。

だからキヨマサ君も約束して。絶対に死なないって

大丈夫です。主様は吾がお守りしますから。

約束してください

……約束する。

澪の領地で造ってるお酒もご馳走してもらうことになってるしね

 澪を乗せたケモノが跳躍して少し離れた場所に位置取った。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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