第22話1 さて、ようやく一人になれた

文字数 599文字

 さて、ようやく一人になれた。

 正確には一人と一体か。

長かった一日がやっと終わるわけだけど、その前に少し話をしようか
わかりました

 僕の前に葵が正座をする。

 その仕草ひとつをとっても、とても人形だとは思えないほど滑らかで自然な動きだ。

 葵を見た人が一様に驚くのも無理はない。

まずは確認から。

ここは僕が作ったゲームの『カラクリノヒメ』にとてもよく似ている。でも違うところもある。そうだね?

はい
それで、葵は何をどこまで知っているの?

 根本的な疑問を解消しておきたかった。

 流されるまま状況を受け入れて、それはそれとして納得してはいる。でもこの確認は大事なことだ。

 ただなんとなく雰囲気に合わせるのと、きちんと覚悟を決めて臨むこと。両者において過程と結果に大きな違いが出てくるのは仕事でもよくある。

 そこを自分の中ではっきりさせておきたかった。

多くのことを知っているわけではありません。

ですが、()が望んだから主様(ぬしさま)がここにいる。それは真実です

どうして僕を望んだのさ。

他にも候補者はいたんじゃない?

いいえ、最初から吾には主様しかいませんでした

 ふむ。嘘を言っているようには見えない。

 もっとも人形の表情や声音から嘘かどうかを見抜く技術を持ち合わせていないから、ただの直感に過ぎないけど。

 最初から選択肢を制限されていて、僕を選ばざるを得なかったという可能性は考慮しておく必要はあるだろう。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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