第37話2

文字数 719文字

 ご機嫌の澪はくいくいと杯を重ねていく。
……いきなりお城に呼び出されてさぁ、知らない人ばっかりのところで生活しろって言われてね。

でもヘキジュがいてくれたらなんとかなるかなぁって思ってたけど、今思えばあれって人質だったんだよねぇ

 頭をふらふらさせながら独り言をつぶやいている。

 口の中で消えてしまうはずの言葉が僕の耳にも届いてしまった。

八岐が暮らせる場所を知行として与えるなんて言われてもさ……私みたいな小娘にできることなんてなにもないのにねぇ。

なんで私だったのかなぁ。もっと優秀な人はいっぱいいたはずなのに……鬼も人狼も土蜘蛛も……みんなみんな私にばっかり責任を押し付けて。本当にひどい話だよねぇ

 くいと杯を傾ける。
やっと落ち着いてきたかなぁって思ってたらあんなことがあって……仕方ないと思うよ。

みんな我慢してた。我慢してがまんして……できなくなっちゃった。

あのときは本当にもうダメなんだなって思った。でもギリギリのところでなんとかなって……もしもあそこで死んじゃってたら楽だったのかなぁ

 ちょっとよくないお酒の入り方をしている気がする。

 ペースを落とさせた方がよさそうだ。

そしたら今度は機巧操士の候補として操心館に行けって言われてね。

よくわからないうちに戦にまで駆り出されちゃって。〈手当〉だって万能じゃないのに。

あー、でもソウゲン様を助けられてよかったなぁ。誰かの役に立てたんだし。

そしたら今度は三桜村が襲われてるって連絡があって、慌てて駆けつけたらキヨマサ君が村を救ってくれたっていうじゃない。

すごいなぁって思ったよ。私より年下なのに勝てないなぁって思っちゃった。

でも私だってやらないといけないことがたくさん……だから……だから……

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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