第52話2

文字数 603文字

あれ? お店閉まってるよ
今日はお休みだったのかな

 この世界に定休日という概念があるかどうかわからないけど。

 すっと葵が体を寄せてきた。

 腕に柔らかなものが当たるのがわかって鼓動が早くなる。

主様。皆様も。

そのままでお聞きください

 囁き声に頷きながら、扉をトントントンとノックする。
こちらの様子を伺っている者がいるようです
 思わず止まりそうになった体を意識して動かした。
返事がないね。留守かな
さ、さぁ~、どどどうなのかなぁ

 澪の返答はものすごくぎこちないけど、それにツッコミを入れる余裕はない。

 翠寿の視線の高さになるようにしゃがんで小声で話しかける。

どこから見られてるかわかる?
 頭巾の下の耳がピクピク動いているのが見て取れた。
わからないです……ごめんなさい

 返事の代わりに頭を撫でる。

 それから立ち上がってみんなに声をかけた。

仕方ない。

裏に回ってみようか

 道を少し戻って長屋木戸をくぐるとそこは裏長屋だ。

 路地を挟んで両サイドに長屋が並んでいる。

 表通りに面したお店も板葺きで時代劇に比べれば見栄えはよくなかったけど、ここの建物はさらにみすぼらしい。

 道の中央には井戸に続く排水溝があり、その上にどぶ板がはめられているので踏み抜かないように道の端を歩く。

さっきの気配はどう?
ついてきてはいないようです。

どうやら店の入口を見張っていたようですね

 視線を下ろすと翠寿も同意すると言いたげにコクコクと頷いていた。
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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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