第45話2

文字数 763文字

じー……
 入口の扉を細く開けて、澪が室内の様子を伺っている。
そんなところで何してるのさ。

遠慮しないで入ってくればいいじゃないか

キヨマサ君がスイジュにいかがわしいことをしないか見張ってないと……
朝の爽やかな会話を楽しんでただけだろっ。

な、翠寿!

 座ったままの翠寿は僕を見上げてにっこりと微笑んだ。本当に翠寿は可愛いなあ。
キヨマサ君の顔が邪悪に歪んでる気がする
邪悪ってなんだよ。

すごく傷つくんだけど

 ついと立ち上がった翠寿が僕を背後にかばうようにして両手を広げる。
いくらミオさまでもキヨマサさまをいじめたらだめです!
 一瞬、澪が泣きそうな顔をする。
大丈夫だよ、翠寿。

今のはいじめようとしたわけじゃないから

そうなんですか?
そうだよ。澪とは仲良しだから、ちょっとじゃれ合っただけ。な、澪
う、うん。そうそう。

キヨマサ君とは仲がいいから……

 微妙に声が上ずっているけど、そこにツッコミを入れるのは野暮というものだ。
だから大丈夫。

それより、そろそろ翠寿もお仕事に行かないといけないんじゃないの

あ、そうでした。いってきますね
うん、いってらっしゃい
ミオさま、いってきます
いってらっしゃい
 翠寿が部屋を後にするのを見送る。
……ふう、びっくりした
ごめんね。

キヨマサ君とスイジュが仲よさそうだったのがちょっと悔しくて……

いいよ、気にしないで。

翠寿の本当の主は澪だって本人もわかってるはずだし

 まだ澪の口元が震えているような気がする。

 いかんいかん。朝からこんな暗い感じはよろしくない。

 せっかく一日が始まるんだから元気にいかないと。

気分転換に町まで出て屋台で朝ご飯を食べない。

僕が誘うんだから澪の分も出させてもらうよ

え、悪いよ。

それぐらい自分で出すから

いいっていいって。

葵は何が食べてみたい

寿司などはいかがでしょうか
お、いいね。

じゃあ、お寿司にするか

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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