第28話2

文字数 720文字

ふん。

機巧操士なのは本当だったようだな

 そして僕の目の前には暗い紫みの青をした機巧武者が立っている。


 吹返(ふきかえし)の小さい瓜形兜の横からは二本の角が水牛のように伸びていたのだろうが、今は両方とも半ばから折れていた。

 横矧の桶側胴には槍によるものだろういくつもの傷跡がある。二の腕に沿った六段の丸袖だが左側は半ばから千切れ、前腕を覆っていたはずの篠籠手も破損して防御力はほぼ失われていた。あれでは力を入れるのも難しいだろう。

 下半身は太もも部分を筏佩楯が、膝から下は中立挙と篠臑当(しのすねあて)を着けている。しかしこちらも左腕と同じくかなりのダメージを受けているのが見て取れた。特に右足の佩楯は破れ、臑を覆うはずの篠も失われて下の布地が露出している。

 腰には人間の姿の時と同じように腰に太刀を佩き、小刀も差していた。

安心しろ、太刀は使わん
 そう宣言して太刀を抜くと地面に突き刺した。
お前はその小太刀を使っても構わないぞ

 そう言われて初めて気が付いた。

 僕の機巧武者が腰に小太刀を差していたのだ。

 機巧操士が装備しているものはそのまま機巧武者に持ち込めるらしい。


 無手の相手に刃物を抜くのも大人げないだろう。

 小太刀を腰から抜いて地面に置く。

ふん。後で泣き言を言うなよ

 さて、どうしたものか。

 こうして立ち合っていても恐怖はなかった。

 理由の一つに相手が既にダメージを負っているのもある。でも、そもそもの話として格の違いを感じていた。

 ここまで差があるのなら完膚なきまでに叩きのめすことも容易だろう。

 しかし、中の人がどういう性格であれ関谷には機巧武者が必要だ。だからこれ以上壊すわけにはいかない。その意味でも無手でやるのは助かる。

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登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

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