第47話1 ここ、ここです!

文字数 666文字

ここ、ここです!

 翠寿が指差す先が目的のお店だった。なかなか立派な佇まいをしている。

 店の前には美しい外見をした人形が立っており、道行く人たちに時折頭を下げていた。

 ある意味においては白髭のチキン屋やピエロのバーガーショップより先を行っていると言っても過言ではない。対抗できているとしたら白い犬の携帯ショップぐらいなものだろう。

この人形、美人だなあ。いいなあ

 確かに美人だった。

 肌の色は白く、瓜実顔で目鼻立ちがしっかりしている。

フドウはこういうのが好みなのか
そうですね。

年上とかいいと思います!

 小柄な不動が並ぶと人形が年上に見えてしまう。

 そういえば僕よりも葵のが身長が高いんだよな。

 今の僕の体は若返っているから仕方がないんだけど。


 津島屋(つしまや)は質の高い人形を扱っており、城下随一と評判の人形専門店だ。

店の前で盛り上がっていても仕方ありませんから入りましょう
おー……
 不動は口をぽかんと開けて店の中に並ぶ人形たちを見ている。
この店の品揃えは一番だとイダが言っていたが、その言葉に偽りはなかったようだな

 確かに圧巻だった。店内には様々な人形が飾られている。

 壁は二段になっており上下に人形がずらりと並び、さらに天井から吊るされているものもある。これだけの数はホラー感すらあった。

ちょっとこわい、です
怖いなら外で待っていてもいいよ
 しばらく考えていた翠寿は首を横に振る。
キヨマサさまのおそばにいます

 そう宣言して僕の袖をそっと掴む。

 心なしか指先が震えているので、安心させるためにぽんぽんと頭巾を被った頭を撫でてあげた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不吹清正(ふぶき・きよまさ)

本作の主人公で元の世界ではゲームクリエイターをしていたが、自分の作ったゲームによく似た世界へ微妙に若返りつつ転移してしまう。

好奇心旺盛な性格で行動より思考を優先するタイプ。

連れ合いの機巧姫は葵の君。

葵の君(あおいのきみ)

主人公の連れ合い(パートナー)である機巧姫。髪の色が銘と同じ葵色で胸の真ん中に同色の勾玉が埋め込まれている。

人形としては最上位の存在で、外見や行動など、ほとんど人間と変わりがない。

主人公のことを第一に考え、そのために行動をする。

淡渕澪(あわぶち・みお)

関谷国の藤川家に仕える知行三百石持ちの侍で操心館に所属する候補生の一人。水縹の君を所有しているが連れ合いとして認められてはいない。

人とは異なる八岐と呼ばれる種族の一つ、木霊に連なっており、癒しの術を得意とする。また動物や植物ともある程度の意思疎通ができる。

大平不動(おおひら・ふどう)

操心館に所属する候補生の一人で八岐の鬼の一族に連なる。

八岐の中でも鬼は特に身体能力に優れており、戦うことを至上の喜びとしている。不動にもその傾向があり、強くなるために自己研鑽を怠らない。

直情的で考えるより先に体が動くタイプで、自分より強いと認めた相手に敬意を払う素直さを持つ。

紅寿(こうじゅ)

澪に仕える忍びで、八岐に連なる人狼の少女。オオカミによく似たケモノ耳と尻尾を有している。

人狼の身体能力は鬼と並ぶほど高く、その中でも敏捷性は特に優れている。忍びとしても有能。

現在は言葉を話せないもよう。

翠寿(すいじゅ)

澪に仕える忍びで、紅寿の妹。人狼特有のケモノ耳と尻尾を有する。

幼いながらも誰かに仕えて職務を果たしたいという心根を持つがいろいろと未熟。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色